文章は、意味が伝わりやすいように書きたいものである。

http://d.hatena.ne.jp/finalvent/20050511/1115770479
より。日経新聞のコラム「春秋」
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20050510MS3M1000610052005.html

枕草子を引用しているのだが。言いたいことがよくわからない。前段二段落はこんなことが言いたいのだろうか?なお、( )内は僕の勝手な注釈

枕草子に「エロ男の心の内は恥ずべきものだ。」とある。(このように)込み入った空間で見ず知らずの男女が共に過ごすのは一筋縄では行かない。作法を誤れば痴漢の冤罪を着せられる。

女性専用車両は逆差別との批判もあるが、冤罪防止に有効という男性側の意見もある。エロ男(≒痴漢=迷惑な客)の心の内が恥ずべきものであることを前提とすれば、男女のすみ分けは車内平和へ一つの選択肢だろう。


しかし、「はづかし」というのは代表的な古今異義語であり、古語での意味は「(自分が気後れするほど)相手が立派だ」である。引用されている枕草子の文は、「男の女性への気遣いは気後れするほど立派なものだ」という意味なのだ。この意味で引用を解釈すると、文章は次のような意味と解釈できる。なお、( )内は僕の勝手な注釈

枕草子に「マメ男の気遣いは立派なものだ。」とある。(しかしマメ男と意中の女性にあらざる)見ず知らずの男女が込み入った空間で共に過ごすのは一筋縄では行かない。作法を誤れば痴漢の冤罪を着せられる。

女性専用車両は逆差別との批判もあるが、冤罪防止に有効という男性側の意見もある。(女性専用車両という発想が)マメ男のような女性への気遣いであると前提すれば、(これは清少納言の言うように立派であり、)男女のすみ分けは車内平和へ一つの選択肢だろう。

正直、無理やりな解釈である。相当の注釈を脳内で補わなければならない。そもそも「はづかし」という古今異義語を知らない中学生には意図が伝わらない文章であるので、もしこういう意図の文章であればその点に関する言及が必要だろう。

ところで、本来のコラムの筆者はどちらの意味で言っているのだろうか?これは難しい。前者のほうが注釈も少なくて済み自然な解釈であるが、古語の解釈が正しくない。後者のような解釈は無理やりではあるが可能ではあるし、古語の語彙を正しく解釈すればどうしてもこうなってしまう。

実は前段だけ読んでもこれはどちらか決定できない。後段も読むと、国際社会を電車になぞらえており、ならず者国家を迷惑客に例えている。この流れから、迷惑客を非難する意味で枕草子を引用していると解釈することができる。このため、全文の解釈としては前者が正しいであろうと判断できる。

古今異義語の誤用をスルーしてしまうコラムニストや新聞の校正というのも間抜けではあるが、まあ詮無きことかもしれない。それよりも、論説文においては、全部読んでからやっと前段の解釈が決定するような文章ではなく、一文一文の意図を明確に解釈できる文章を書きたいものである。なかんずく新聞のコラムニストなんて文章のプロなんだから、それくらいお願いしますよ。