なぜ違法の疑いのある策を取るか

帰師は遏(とど)むるなかれ、囲師は必ず闕(か)き、窮寇は迫るなかれ
孫子

退却する敵を不用意に阻止してはならない。包囲戦では(完全包囲せず)必ず逃げ道を作れ。窮地に陥った敵を追い詰めてはならない。

いずれも、必要以上の損害を被る可能性があるので「窮鼠猫を噛む」ような状態に敵を追い詰めてはならないというような意味か。


フジテレビの戦略の意図はこういったところだろう。

  1. ニッポン放送所有分の株を貸し出してしまうことによりニッポン放送の魅力を減少させる
  2. 差し止め請求と言う攻めやすい目標を用意した上で包囲(新株予約権購入)する
  3. TOB期間延長により、ほりえもんTOB価格で損切りするという退路も同時に用意する

もし差し止め請求しないか却下されればそこでゲームセット。ほりえもんは退却するしかない。
差し止め請求が認められても、その判例ライブドアが増資によりフジテレビへの議決権を復活させようとするときに足枷となる。


なかなかうまい作戦であるとは思う。
ただ、フジテレビとしては、ニッポン放送を買収されてしまう事は避けたいはずである。実際の所、ポニーキャニオンその他ニッポン放送子会社の切り離しを実行するのは、フジにとっても痛みを伴うことであろう。(とはいえ、買収されちゃったら切るんだろうけどね)

ほりえもんがこの時点で損切りするような人物でないのは明白なので、もう少しこの退路をライブドアにとってもう少し魅力的なものにしないと(TOB価格引き上げ)、どちらに転ぶかわからない差し止め請求の行方という丁半博打に命運を委ねざるを得ない状況になるのではないか。
また、この発表によりニッポン放送株は下がるであろうが、TOB期間中はTOB価格より下がることはありえないため、買収続行ならばライブドアにとって有利に働く恐れもある。


もっとも、フジのこのようななりふり構わぬ策を引き出してしまったこと自体、敵の退路がないような包囲戦を行ってしまったほりえもんの失策であろう。やるならば、できれば50%もしくは66%取得してから騒ぐべきであった。それは無理だとしても少なくとも、2/8に大量購入を行ったその日にプレスリリースする必要はなかったはずである。5%ルールによる開示期限ぎりぎりまで黙って買うべきであった。
さもなくば、フジ側に退路(落とし所)を用意すべきだったはずだ。

其の疾きこと風の如く、
其の徐かなること林の如く、
侵掠すること火の如く、
動かざること山の如く、
知り難きこと陰の如く、
動くこと雷霆の如し
孫子