ソフトウェアとハードウェアの幸せな結婚

ふと思う所があって、iTunesMusicStoreをブラウザから見ようとしてみた。今日見てみるまで知らなかったけど、実はiTunesMusicStoreはブラウザからは見れない。iTunesからのみ見る事ができる。appleのページからiTunesMusicStoreを見ようとすると、(インストールされていれば)iTunesが立ち上がる。(Windowsではitms://プロトコルのハンドラとしてiTunesが登録されているようだ)

実はこれ、EC事業者としてはものすごい羨ましい話である。
iPodユーザはほぼ100%iTunesユーザである。そしてiTunesユーザには音楽コンテンツのニーズがある。その上iTunesユーザはあまりにも簡単にiTunesMusicStoreから音楽コンテンツを購入できる。何せiTunesMusicStoreは、毎日使うiTunesのメニューの一部なのだから。ターゲットとするマーケットセグメントに属する全ユーザのPCに専用クライアントソフトがインストールされており、ユーザはほぼ毎日それを使用する。なんてうらやましい!これつまり、ピンポイントなニーズを持つ人に対して、一切広告費を使わずに毎日毎日大大的な広告を打ってるようなものである。

通常のECサイトであれば、顧客にモノを買ってもらう前に、常に競合他社のECサイトとの比較検討に勝利しなければならない。ところがiTunesMusicStoreに関してはそのハードルはない、もしくは限りなく低い。だって、Googleで音楽を売っているサイトを探す必要がない上、iTunesにインポートする手間もないのだから。更に言うと、独自クライアントであるが故、Webブラウザの表現力に縛られることもない。(実際には、ブラウザの挙動に近い操作感であるが、ブラウザよりもややリッチな表現能力+iTunesと統合された検索機能などを持つ)さらに細かいことを言うと、ブラウザ向けのページよりもQAが楽だろう。何せクライアントプログラムは自社製品のみだから。

iPod/iTunes/iTunesMusicStoreは、相互にその価値を補完し、高めあっている。しかもそれら全てがAppleにユーザを囲い込む強烈な効力を持っている。これがシナジーというものなのだろう。この完璧なシナジーの前では、よくM&Aのプレス発表で語られる「シナジー」なる表現がいかに空々しく聞こえる事か(w

マイクロソフトにならiTunesとiTunesMusicStoreを作る事はできるだろうが、それプラスiPodは作れないだろう。iPodまがいを作っている家電メーカーは雨後のタケノコ状態だが、iTunes/iTunesMusicStoreを上記のような巧妙な戦略の元に作れるメーカーは(少なくとも国内には)ない。ソフトはハードのオマケと考えている連中がほとんどだ。

この辺の統合と囲い込みのうまさというのは、やはりハードからOSまで全部自前で作る企業の総合力なのか。(IBMとか昔のNECなら同等の能力を持ってるかもしれんが、彼らはコンシューマ相手のビジネスが下手だ)


一連の戦略がすべて順調に進み、もはやハードの売上だけでなくiTunesMusicStoreからのトランザクションフィーを十分に魅力的なビジネスに育て上げた今このタイミングに、安価なiPod shuffleを投入し、さらにマーケットの裾野を広げんとするジョブスが今夜飲む酒は相当にうまいのであろう。